レベニューオペレーション(RevOps)とは、企業の各部門がスムーズに連携し、顧客体験を向上させ、組織全体の収益を最大化するための戦略です。日本ではまだあまり知られていませんが、アメリカでは広く受け入れられており、2022年の統計によると、48%の企業がRevOpsに関連する部門を設置しています。
この記事では、レベニューオペレーション(RevOps) の特徴とSaaS企業におけるレベニューオペレーション(RevOps) の構成と構築方法について解説します。
レベニューオペレーション(RevOps) の特徴とは
レベニューオペレーション(RevOps)は、営業、マーケティング、カスタマーサクセスといった部門の基盤を整え、組織全体の収益を最大化するアプローチです。RevOpsではマーケティング戦略を最適化し、関連する人材、プロセス、テクノロジーの標準化を進めます。
通常、RevOpsの人員配置は、売上増加を最優先するリーダーのもとに展開されます。このリーダーとして理想的なのは、最高レベニュー責任者(CRO)です。この配置により、売上増加を重視する文化が組織内に確立されます。
SaaS企業におけるレベニューオペレーション(RevOps)の構成
レベニューオペレーション(RevOps)の構成組織は、SaaS業界では、営業、マーケティング、カスタマーサクセスの3部門です。以下に解説します。
- 営業
- マーケティング
- カスタマーサクセス
セールスオペレーション
セールスオペレーションは、営業部門の能力を最大化するためのさまざまな戦略と実行を担当します。この部門は、企業によって営業支援、営業企画、営業統括などとも呼ばれることがあります。
セールスオペレーションの業務は、以下を含みます。
- リードの管理
- 営業戦略の策定
- テリトリーの構成と調整
- セールスプロセスの最適化
- 報酬プランの管理
- セールスオートメーションの導入
- 営業トレーニングの提供
- データの分析と報告
これらの業務は営業の上層部によって実施されることがありますが、レベニューオペレーション(RevOps) として、これらを統合的に連携して実施することが重要です。この統合により、営業部門はより効果的に機能し、全体としての収益性の向上が期待できます。
マーケティングオペレーション
マーケティングオペレーションは、マーケティング部門の人材、プロセス、テクノロジー、データを一元管理し、効率的な運営とスタッフの生産性向上を図る重要な役割を担います。
マーケティングオペレーションは、テクノロジーを駆使し、マーケティング部門だけでなく営業やカスタマーサクセスなど他部門とインサイトを共有し、部門横断的なコミュニケーション、レポーティングを行います。
マーケティングオペレーションは「マーケティングとITの架け橋」とも呼ばれ、専門知識、分析力、実行力が必須です。Chiefmartec社の調査によると、2023年現在で1万1038のマーケティングテクノロジーソリューションが存在し、AIの進化により市場は劇的な変化を遂げています。
このように、ITと連携すること、またセールスやカスタマーサクセスとの連携を促進することで、マーケティングオペレーションは企業にとって不可欠な機能となっています。
カスタマーサクセスオペレーション
カスタマーサクセスオペレーションは、CS(カスタマーサクセス)施策が効率的かつ効果的に実施されるよう、包括的にサポートする部門です。この部門の主な任務は、カスタマーサクセスのワークフローの最適化です。業務の遂行に最適なデジタルツールの選定と運用管理を行い、CSオペレーションを継続的にサポートし改善していくことです。
具体的な役割には以下が含まれます。
- CS活動のロードマップの計画
- デジタル主導のCSモデルやプログラムを統合するためのベストプラクティスの開発
- ビジネスの成長に合わせた拡張可能なデジタルツールやプロセスの提供
- 全てのデータサイエンスとレポーティングの管理
- CSデータからのインサイト抽出と他部門への情報提供
- CSリーダーシップへのコンサルティングの提供
これらの要素が適切に機能することで、組織は収益向上を実現できます。
SaaS企業がレベニューオペレーション(RevOps) を構築するのに必要な3つの要素
SaaS企業において、効果的なレベニューオペレーション(RevOps)を構築するためには、以下の3つの要素が必要です。
- 全体を統括するCRO(Chief Revenue Officer)
- 部門の垣根を越えた連携
- データ分析とツールへの理解
全体を統括するCRO
CRO(Chief Revenue Officer)は、企業の収益戦略を全体的に統括するという重要な役割を担います。この役職は、多岐にわたる部門間の橋渡しを行い、収益増加を最優先事項として推進します。
CROは、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなど、収益に直結する部門間の連携を促進し、組織全体の収益増加に貢献する戦略を立案・実行します。
部門の垣根を越えた連携
収益を最大化するためには、部門間のシームレスな協力が不可欠です。部門間の連携を促進するには、明確な責任者がいることが望ましいです。組織内でのコラボレーションを推進することで、個々の部門が孤立することなく、統一された目標に向かって努力できます。
特に日本は、組織内において営業部門がもともと強い立場にあるため、組織編制から見直すことが重要です。レベニューオペレーション(RevOps) では、現場での豊富な経験を持つ人材を据えるのが望ましいでしょう。
データ分析とツールへの理解
収益向上のためには、適切なデータ分析能力とツールの理解が必要です。これには、適切なCRMシステム、マーケティングオートメーションプラットフォーム、セールスイネーブルメントプラットフォーム、分析ツール、ワークフロー自動化ツールなどの活用が含まれます。これらのツールを効果的に利用することにより、組織全体のデータからインサイトを抽出し、戦略的な意思決定をサポートすることが重要です。
これらの要素をバランスよく整えることで、SaaS企業は持続可能な成長と収益の最大化を実現できます。
SaaS企業におけるレベニューオペレーション(RevOps) の成功指標
SaaS企業において、レベニューオペレーション(RevOps) が成功しているかどうかは、以下の指標で確認できます。
- 売上
- パイプライン内の優良顧客
- リードの成約率
- 成約までの期間
- 顧客生涯価値
- 売上維持率
売上
売上はレベニューオペレーション(RevOps) の成功を測るための中核的な指標です。これは、一定期間内(通常は月単位、四半期単位、年単位)にビジネスから創出された金額を指します。特に、以下の三つの主要な指標が広く用いられています。
MRR(月次経常収益)
MRRは、SaaS企業やその他のサブスクリプションベースのビジネスモデルで一般的に測定される指標です。これは、アクティブな顧客から毎月獲得される予測可能な売上の合計を示します。
ARR(年間経常収益)
ARRは、MRRを基にして算出される年単位の指標です。これにより、年間を通じた売上の安定性や成長性を把握することができます。
ARPU(ユーザー1人当たりの平均売上)
ARPUは、ユーザー一人あたりの平均売上を表す指標で、特に電気通信やデジタルメディア企業で重視されています。この指標により、顧客基盤に対するビジネスの収益性を評価することが可能です。
これらの指標を活用することで、RevOpsは収益管理を最適化し、組織全体の収益増加を目指します。
パイプライン内の優良顧客
パイプラインの規模は、将来の潜在的な売上を予測する上で重要な要素です。RevOps戦略の一環としてパイプラインを定期的に分析することは、売上に影響を及ぼす問題を迅速に特定し、対処するために不可欠です。
優良顧客はクオリファイドリードとも呼ばれ、マーケティング部門と営業部門が共同で評価し、購入意欲が高いと判断した見込み客のことを指します。
この指標は、マーケティングと営業の努力が適切な対象者や顧客セグメントに適切に向けられているかどうかを評価するための重要な指標です。このように、優良顧客を効果的に特定することで、リソースを最も有望な機会に集中させ、収益性を最大化することが可能になります。
リードの成約率
リード成約率とは、パイプラインに入ったリードのうち成約した顧客、つまり商談が成立した顧客の割合を示す重要な指標です。この指標を測定することで、マーケティング部門と営業部門のパフォーマンスを把握し、潜在的な問題を特定できます。
たとえば、多くの優良顧客(クオリファイドリード)が存在するにも関わらず成約率が低い場合、営業部門のスキル向上やリソースの増強が必要かもしれません。逆に、成約率が高いがクオリファイドリードの数が少ない場合は、マーケティング戦略の見直しやターゲティングの改善が求められます。
成約までの期間
成約までの期間、またはセールスサイクルの長さは、新規潜在顧客との最初の接触から商談成立までの時間を指します。特にBtoBでは、製品の価格が高い、意思決定に時間がかかるなどの理由からセールスサイクルが長引きがちです。
企業は顧客体験を損なうことなく、セールスサイクルをできる限り短縮することが求められます。これにより、マーケティング部門と営業部門のROIが最適化され、結果として売上の増加を促進します。
顧客生涯価値
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は、SaaSビジネスにおいて、1顧客が契約期間中に企業にもたらす利益の平均値を表します。これは、SaaSビジネスの事業効率を測るための重要な指標であり、1990年代のダイレクトマーケティング分野から生じた概念です。
長年の調査により、新規顧客の獲得コストが既存顧客を維持するコストの5倍から25倍になることが明らかになっています。サブスクリプション型ビジネスモデルが主流となる現代において、顧客維持は売上拡大の核となり、顧客生涯価値(CLV)の重要性が高まっています。
CLVは、ある顧客が企業と関わる期間全体を通じて創出される売上総額の平均値として計算されます。これは、顧客獲得コストと対照的に、企業の収益性や成長の持続性を示す指標として機能します。
売上維持率
NRR(Net Retention Rate)、または売上維持率は、SaaSビジネスなどで特に重要な指標です。これは、前年や前月などの比較時点における既存顧客からの収益がどの程度増減しているかを示します。
NRRはSaaSビジネスで重要な理由
NRRが重要な理由は2つあります。
1つは、低コストでの収益増加です。
既存顧客からの収益は新規顧客獲得に比べて低コストです。マーケティングの世界では、新規顧客獲得に必要なコストが既存顧客維持のコストの5倍に相当すると言われています。この「1:5の法則」により、既存顧客を維持する方が経済的であるとされています。
もう1つは、効率的な収益生成です。
新規顧客を獲得できない期間があっても、既存顧客との契約が継続されることで収益は維持されます。また、既存顧客はサービスの価値を理解しているため、アップグレードやクロスセルの可能性が高まります。
NRRの計算方法
NRRは以下の式で計算できます。
{(月初のMRR+Expansion MRR)-(Downgrade MRR+Churn MRR)}÷月初のMRR
- MRR (Monthly Recurring Revenue): 月次経常収益
- Expansion MRR: その月にアップグレードや追加購入によって得られた収益の増加分
- Downgrade MRR: その月にダウングレードによって減少した収益
- Churn MRR: その月に解約によって失われた収益
NRRを改善することにより、SaaS企業はより持続可能な成長と成功を達成する可能性が高まります。
レベニューオペレーション(RevOps)を定着させるには顧客管理が重要
NRRは、SaaSビジネスにおける既存顧客がサービスを継続して利用しているかを測る重要な指標です。この指標が100を超えると、それは既存サービスに成長性があることを示し、収益拡大の可能性が高いことを意味します。一方で、NRRが100を下回る場合は、収益が減少していることを示し、即座に対策を講じる必要があります。
NRRを改善するための主要な方法の一つは、カスタマーサクセスの強化です。企業は顧客からの単なる反応を待つのではなく、積極的に関与し、サービスの価値や重要性を伝えることが重要です。これにより、顧客の満足度と継続利用率が向上し、結果的にNRRも改善されます。
NRRの改善にはCRM(顧客管理システム)を活用すべき
カスタマーサクセスのリソースが限られている場合は、CRM(Customer Relationship Management)システムの効果的な利用が推奨されます。CRMを活用することで、顧客データを効率的に管理し、各顧客に最適化されたコミュニケーションを展開できます。これにより、顧客のエンゲージメントを高め、より深い関係を築くことが可能になり、NRRの向上に貢献するでしょう。
とはいえ、どのCRMが自社に最適なのか、選定が難しいと感じている企業は少なくありません。
【diver】を活用して自社に最適なITツールを選ぼう
引用元:diver
Merが提供する【diver】は、自社に最適なSaaSの選定から設計、自動化構築までを実行するサービスです。専任のSales Opsチームが、その企業に必要かつ最適なITツールの選定から自動化構築まで実行し、運用が定着するよう、最適なワークフローを構築し続けます。業務の最適化はもちろん、作業の漏れ・ミス・負荷の減少にもつながります。
レベニューオペレーション(RevOps) の実行には、CRMをはじめSFAやMAなど、自社に適切なITツールの選定が必須です。とはいえ、数多ある中から自社に最適なものを選ぶのは困難だと感じている企業は少なくありません。
レベニューオペレーション(RevOps) の実行とNRR改善の推進に最適なITツールの選定に悩んでいるなら、ぜひ一度、ご相談ください。