アメリカで注目されつつあるポジションに、セールスオペレーションがあります。セールスオペレーションは営業活動を効率化し、営業チームの能力を最大化させるために実行するさまざまな戦略のことを指します。
この記事では、セールスオペレーションの概要と仕事内容、今後重要視されていく理由、メリット・デメリットについて解説します。
セールスプロモーションは、社内の営業スキルの向上と属人化の防止など、課題解決に役立ちます。この記事が、営業部門の課題解決に取り組みたい企業や担当者の皆さんの一助となれば幸いです。
1.セールスオペレーションとは
セールスオペレーションとは、営業活動を効率的に行えるようテクノロジーやプロセスを整理・効率化し、営業チームの能力を最大化していきます。セールスオペレーションは、日本の企業では営業推進や営業企画が担う役割に近く、営業チームを包括的に支援する部門という位置づけです。
2.セールスオペレーションが今後、重要視される理由
セールスオペレーションは日本ではまだまだマイナーですが、アメリカでは徐々に注目されてきています。この項目では、今後セールスオペレーションが重要視されていく理由について解説します。
社会背景(労働人口の減少)
少子高齢化によって労働人口の減少が進む今、あらゆる企業が、新規顧客へのアプローチの最適化と顧客の離脱を防ぐための施策を考えなければなりません。
効率的な受注と売上向上を目指すには、営業活動のプロセスの整備が重要です。見込み客に最適なタイミングでアプローチし、受注した顧客の解約や離脱のリスクをできるだけ早期に見つけ、成約率向上と解約率を下げるための仕組みを作ったり、カスタマーサクセスに向けて顧客に伴走できたり、最適なオペレーションを整備すべきです。
この役割を担うのが、セールスオペレーションやカスタマーオペレーションと呼ばれるポジションです。海外では、より良いオペレーションを追求する「オペレーショナル・エクセレンス」と呼ばれる考え方が現場の末端まで浸透しており、より良いオペレーションを常に追求し改善し続ける仕組みができている企業が多いです。
今後は日本でも、オペレーショナル・エクセレンスの考え方が重要になっていくことが予測できます。これに伴い、セールスオペレーションのポジションは今後ますます注目されていくでしょう。
米国でのセールスオペレーションの状況
LinkedInが米国内の500人のセールスオペレーションの専門家を対象に調査を行い2021年に公表されたレポート「The State of Sales Operations」によると、2018年から2020年の間に、セールスオペレーションの専門家の数は38%増加しています。営業部の増加数に比べると、4.8倍もの速さで増加していると言います。
LinkedInのデータでは、専門家の89 %が、より頻繁に計画を立てることで営業チームがより大きな成功を収めており、会社の事業全体にいい影響を与えられると考えています。
しかし、現実問題として、36%のセールスオペレーション部門が人材の採用を課題と感じており、51%が自分の仕事のためのリソースが不足していると答えています。
セールスオペレーション導入によって、企業の収益の増加率や相関関係を示す統計数字は今のところ出ていません。成果についてはまだ様子見の段階ですが、当事者が手ごたえを感じていることはLinkedInの調査結果からうかがえます。
また、米国ガートナー社のブログ(The Evolution of Sales Operations – Gartner)によると、アメリカ国内におけるセールスオペレーションは、リアクティブからプロアクティブ、さらにプレディクティブへと移行し続けており、セールスオペレーションの領域がどんどん進化しています。
顧客の最適なオペレーション
セールスオペレーションは、集めた顧客データを集約し、活用することに特化した部署です。効率的で緻密なデータ分析によって、顧客にとって最適かつ有効な施策を打ち出します。
カスタマーオペレーションは、セールスオペレーションやマーケティングオペレーションよりもずっと広い範囲でのデータを統合するため、時には、バックオフィス業務を担う部門や開発部門が保有する顧客データも活用します。これまで活用されてこなかったデータを事業に活かせるようになります。
3.セールスオペレーションの仕事内容
セールスオペレーションの主な仕事内容は、営業チームの業務の効率や生産性、業績を高めることです。セールスオペレーションチームは多くの役割を担い、それぞれに責任を全うすることが必要です。
ここでは、セールスオペレーションの仕事内容として、5つの役割を挙げて紹介します。
営業戦略構築
セールスオペレーションの業務を具体的に挙げると、次のような業務を担います。
・営業戦略の構築、プランニング
・目標設定
・セールスプロセスの最適化
・経営陣や取締役会へのプレゼンテーションとレポート提出
セールスオペレーションの役割として真っ先に挙げられるのが、営業チームの営業戦略の構築です。多くの場合、データの分析結果を元に営業戦略を立案し、販売目標を設定します。コンバージョン率の改善やセールスサイクルの短縮などを通じて売上額の最大化を目指し、営業プロセスを構築していきます。
販売領域地域の計画
営業の担当領域を定義付けし、それぞれの領域を営業担当者へ割り当てする業務を担います。取得可能な報酬や勤務時間が担当領域によって左右されるため、営業担当者の適性を見抜かなければならず、非常に重要なポジションだと言えます。
ある営業担当者は大規模企業への対応に強みを持ち、別の営業担当者は小規模企業の顧客への対応を好んでいる場合、セールスオペレーションは、営業担当者全員がそれぞれ得意とする案件に対応できるようにチームの再編成を検討すべきです。セールスオペレーションが営業チームの体制や編成に関与すると、営業効率・成果・パフォーマンスの全てにおいて、最大化を目指せるからです。
このように、セールスオペレーションは営業戦略のほか営業に関するさまざまな立案にも関わるため、担当領域の定義付けも担当するとスムーズです。
営業活動の提案と契約の情報管理
セールスオペレーションは、リードの獲得をはじめ、リードとコンタクトを取るためミーティングの予約などの管理業務を担います。セールスオペレーションが営業活動の提案と契約に向けた情報管理を実施するため、営業担当者はコア業務である営業活動そのものに集中できるようになります。
この場合、営業チームとマーケティングとの連携について、SLA(サービスレベルアグリーメント)と呼ばれるサービス水準の合意をしておくことをおすすめします。SLAとは、営業チームとマーケティングチームの間で、それぞれに期待することを定義することを意味します。それぞれの立場で、コミュニケーションを明確にするのに役立ちます。
SLAでは、営業チームがバイヤーペルソナ(理想的な顧客モデル)に従う方法やMQL(マーケティング活動で創出する確度の高い見込み客)を受け取る営業担当者の選定、書類やデータの格納場所などを確認し、合意しておくといいでしょう。
売上シミュレーションとレポート
セールスオペレーションは、売上のシミュレーションとレポートの作成を担います。シミュレーションに対し定期的に営業の業績評価を実施し、営業担当者の報酬計画とインセンティブの管理もします。特に優秀な業績に対して報酬制度を設け、業績が芳しくなければ、停滞の原因を検証し、解決に向けたプロセスの構築も担います。
営業チームが成長のために活動している間、セールス オペレーションはビジネスそのものを改善するために活動します。
CRM等のデータとシステム管理
セールスオペレーションは、営業チームと営業担当者の業務効率向上のため、ITチームと協力しながら、ITツールやシステムの実装と利用を管理します。
セールスオペレーションは、常に営業チームと連携する必要があります。営業チームからの営業活動やキャンペーンによる成果の報告を受けたり、契約が成立した場合にはニュースとして知らせたりするためです。
営業チームとの連携には、SlackやChartwork、社内Wikiなどのコミュニケーションチャネルを活用するといいでしょう。CRMと呼ばれる顧客管理ツールを導入すると、顧客データを営業組織全体でスムーズに共有できます。
4.セールスオペレーションのメリット
売上予測の可視化による事前把握
セールスオペレーションは、過去のデータやパフォーマンスの傾向を分析・把握し、今度の売上を予測し可視化できます。事前に売上予測を立てることによって潜在的な課題を洗い出すことができます。目標達成に向けて、営業チームは、自分たちが抱える課題の解決や修正に取り組むことができます。セールスオペレーションの取り組みは、非常に重要だと言えます。
また、セールスオペレーションがより緻密なデータを収集・分析できれば、最小限のコストと労力で確度の高いターゲットへの営業活動を実現できます。商談の開始からクロージングまでにかかる時間や、営業担当者それぞれの生産性の可視化もでき、生産性向上と会社全体の売上アップにもつながります。
社内の営業スキルの均質化
セールスオペレーションによって成果に直結するデータを蓄積・可視化できるようになると、成果の出やすい営業プロセスや失注しやすいケースなどのノウハウを共有できるようになります。これにより、社内の営業スキルの均質化が図れます。
営業職は属人化しがちな面があります。一部のトップセールスが売上の大部分を占め、ほかの営業担当者が成果を上げるのが難しいという悩みを抱えている企業は少なくありません。しかし、営業データの分析を通じて、トップセールスと他の営業担当者との違いを見つけることができるようになり、新入社員や営業スキルをまだ持っていない中途入社の社員の即戦力かも期待できます。
5.セールスオペレーションのデメリット
営業フローの変更
セールスオペレーションでは、CRM(顧客管理ツール)やSFA(営業支援ツール)の導入が必須です。そのため多くの場合、従来の業務フローが変更されることが多くあります。
導入するツールによっては、営業の商談プロセスや業務フローそのものを見直さねばならないケースもあるはずです。営業担当者の多くが担当業務の傍らでツールを運用せねばならず、中途半端に運用されていることが少なくありません。
また、ITツールの導入の際には、使い方を習得するための時間と手間などの学習コストがかかります。長く営業を続けているベテラン社員にとって、テレアポや飛び込み営業は得意でも、CRMへの顧客データの入力は苦手な作業かもしれません。Excelなどに入力済みの顧客データをSFAへ移行する時間があるなら、1件でも多くの顧客に営業をしたいと考える人もいるかもしれません。
こうしたツールは、導入後、正しく運用して初めて成果を得られます。これまでのデータの移行や営業フローの変更を乗り越えなくてはならないという壁が、セールスオペレーション導入のデメリットと言えるでしょう。
広範囲の事業理解が必要
セールスオペレーションは、あらゆる営業活動に関わります。時にはバックオフィス部門や開発部門のデータを収集し分析することもあります。包括的に管理・分析し、成果を上げる取組をしていく必要があるため、自社の事業について、広範囲で理解しておく必要があります。
6.セールスオペレーション導入のポイント
データ分析ができる人材の育成・確保
真っ先にすべきは、データ分析ができる人材の育成と確保です。
・経営的な視点がある
・業務や事業に対する幅広い知識が必要
・ITリテラシーがある
・営業プロセスに精通している
以上の4点を備えている人材を確保し、将来を見据えて育成していく必要があります。
セールスオペレーションは広範囲のデータを分析・活用するため、経営的な視点が求められます。経営戦略に有効かつ適切な施策を立案したり、さまざまな部門と連携しながら進めたりするため、業務や事業に対する幅広い知識が求められます。
セールスオペレーションでは、さまざまな種類の業務管理ツールを効率的に運用することが求められます。そのため、一定以上のITリテラシーがある人材を確保すべきです。ノウハウや知識のほか、ツールやソフトを使う理由や目的など、本質を見抜く力も重要です。
幅広い業務管理ツールを効率的に運用させる必要があるため、一定以上のITリテラシーが必要です。使用方法のような単純なノウハウや知識だけではなく、ツールを使う目的や理由のような本質的な考え方を理解する力も重要です。最も重要なのが、営業プロセスに精通していることでしょう。データ分析を元にした予測は、机上の空論に過ぎません。営業プロセスを理解し最新の営業手法をしっかりキャッチアップし、営業戦略を立案できるだけのスキルを持っていれば、営業経験者でなくても活躍できる可能性は高いです。
CRM・SFAツールの導入
セールスオペレーションは、CRMやSFAなどのツールを活用し、営業活動をより効率的にする役割を担います。セールスオペレーションを実践するにはこのようなツールの活用が欠かせませんが、ツールの選定に悩むことも少なくありません。
セールスオペレーションを実践していくには、データの収集と活用が必須です。導入時には、容易に設定できて日常的な入力の負担が小さいツールを選ぶことをおすすめします。現場の営業担当者と協議して選定するといいでしょう。
セールスオペレーション組織の構築
セールスオペレーションは、データの集約と活用に特化した部署であるため、効率的かつ緻密な分析を元に有効な施策を打ち出す必要があります。個々のスキルには依存せず、チームで顧客データの分析と、運用のためのシステム管理を行います。
人材の育成を通じて、事業の成長とカスタマーサクセスに貢献できる、強くしなやかなセールスオペレーション組織を構築していくことが求められます。