営業やセールスに関わる人の間で今注目を集めているのが「セールスイネーブルメント」です。セールスイネーブルメントとは、成果につながる営業人材育成のことを指します。セールスイネーブルメントを取り入れ推進すると、営業組織の強化につながります。
セールスイネーブルメントを成功に導くには、セールスイネーブルメントのステージごとのツールの活用とKPIの設定について理解しておくことが重要です。
この記事では、セールスイネーブルメントの概要と今注目を浴びている背景とともに、各ステージでのツールの活用とKPIの設定状況について解説します。
1.セールスイネーブルメントとは
セールスイネーブルメントとは、成果を出す営業担当者を輩出し続ける人材育成の仕組みのことを指します。セールスイネーブルメントでは、具体的に次のような取り組みがあります。セールスイネーブルメントの概念は、2010年頃にアメリカで生まれました。
・組織全体のパフォーマンスの可視化と営業能力の継続的改善の促進
・トップセールスのアクションやナレッジを誰もが使えるようにする
・トレーニングやコーチングの個別の実施
・基礎から実践までのトレーニングをフォローする
セールスイネーブルメントには、営業成果の最適化を促進する効果があります。複雑かつ細分化した顧客のニーズを明確にし、営業活動の属人化を防ぎます。
2.セールスイネーブルメントが注目を集める社会背景
デジタルツールの急速な発展
以前の営業スタイルは、テレアポや飛び込み営業が主流でしたが、SFA(営業支援ツール)やMA(マーケティングオートメーションツール)のデジタルツールの台頭が、営業の手法にも大きな変化をもたらしました。
デジタルツールの活用によって、顧客情報や社内データの可視化が実現しましたが、日本はデジタルへの移行が遅れており、システムは導入したものの、活用しきれていないケースが多く見られます。
例えば、本来MAツールの活用によってリードの獲得に成功しても、営業部門での生産性に問題があれば、せっかく獲得したリードを取りこぼしてしまうことになります。せっかく導入したSFAが単なる営業の数値管理にしか使われないというような状況を打破すべく、営業プロセスの見直しが求められるようになったのです。
サブスクモデルの普及
デジタルツールの導入が進むにつれ、SaaSビジネスのようなサブスクリプションモデルが急増した結果、これまでの“売ったらおしまい”から”売ったあとに成功に導く”ためのサービスが主流となりました。これも、セールスイネーブルメントが注目を集めるようになった理由の1つと言えるでしょう。
通常、営業担当者は、商談に向けて製品やカスタマーサクセスについての理解が必要です。これに加え、サブスクモデルの場合には、継続的に利用する顧客の特徴や顧客のニーズ、立場や課題を把握したうえでの提案が求められます。そのため、営業担当者は、カスタマーサクセスやマーケティング部門との連携し、営業資料や提案書を作成に向け、背品や顧客ニーズを理解することが求められます。
オンラインを中心としたマーケティング
インターネットの普及により、多くの人が比較的容易に情報を入手できるようになりました。近年ではMAツールの活用によりマーケティング活動が急速に変化した点も、セールスイネーブルメントが注目を浴びる理由の1つになっています。
マーケティング部門はMAを含めさまざまなチャネルからリード獲得を目指し、営業部門は受注に注力します。両者の役割が異なるため、時には溝が生まれてしまうことも。こうした事態を避けるには、マーケティング部門と営業部門を連携させるべきです。この役割を担うのが、セールスイネーブルメントなのです。
3.セールスイネーブルメントの主なKPI設定
①商談から成約にかかる平均期間
商談から成約までの平均期間を数値化し、サイクルを早めることでコスト削減につなげます。そのために、商談から成約までの平均期間をKPIとして設定します。商談開始から成約までの日数がかかりすぎるようでは、1案件に費やす時間が長くなり非効率だからです。
②営業案件数
KPIによって営業担当者が抱える案件数を把握し、個人が抱える案件が適正か判断します。個人が抱える案件が多すぎると対応に不備が出る可能性があり、少ないと特定の営業担当者に仕事がない状態が生じ、効率が悪いです。
③リード獲得数
実施するキャンペーンごとに創出できたリード数を設定します。キャンペーンごとの指標はもちろん、期間ごとなど、さまざまな角度から見るべきです。
④MQLからSQLへの移行数
MQLをSQLへの移行数と移行率によって、マーケティングと営業の連携の良さがわかります。MQLはMarketing Qualified Leadの略で、マーケティング担当が創出する温度の高い見込客を指し、SQLは営業担当者が直接営業活動を行う見込み客を指します。
⑤ ユーザー維持率
新規顧客開拓に比べて既存の顧客から継続して発注を受けるほうが、効率よく利益を上げられます。もしも顧客がごく短期間で離脱してしまうようなら、その原因を探り、改善につなげていくのがポイントです。
⑥見込み顧客のCV率
見込み客のうち、成約につながった率をCV(コンバージョン)率と言います。CV率を算出し、特定の営業担当者のCV率が低い場合には、成約に結びつかない理由を探るべきです。
⑦ CLTV(顧客生涯価値)
LPI設定において、CLTVも重要なポイントです。顧客の総数に変化がない場合でも、顧客単価が上がったり継続期間が長くなったりすれば、全体の売り上げの向上につながります。
4.セールスイネーブルメントの成長ステージによって異なるKPI
セールスイネーブルメントを用いて営業活動を改善していく場合、プロセスを5つのステージに分けて考えるとスムーズです。この項目では、それぞれのステージごとの特徴と必要なツール、KPIへの考え方について解説しています。
初期ステージ
ステージ1は、初期ステージと呼ばれます。起業したばかりの企業や大企業の新規事業部が立ち上がったばかりの状態をイメージするとわかりやすいです。ツール等は必要最低限しかそろっておらず、詳細なプランも決まっていません。
初期ステージでは、新しい市場を開拓しようとしている段階です。営業に必要なノウハウやツールも不足しているため、営業活動を実行するよりも、それらを作成することに重点が置かれます。
ツール
セールスイネーブルメントで使われるツールとは、デジタルツールのことを指します。営業活動をサポートするには、名刺や商品カタログのようなアナログなものからデジタルツールまでさまざまなものがあります。初期ステージでの営業ツールは、ファイル共有システムに保存されていることがほとんどです。
KPI
KPIはKey Performance Indicatorを略した言葉で、重要業績評価指標とも呼ばれます。企業の目標達成度合いを数字で測定する方法の1つで、セールスイネーブルメントの初期の段階ではまだ営業活動がほぼ始まっていないため、KPIで測定できることは限られます。
発展途上ステージ
ステージ2は発展途上ステージと呼ばれます。ステージ1に比べ営業環境が適切に構築されつつありますが、それぞれの要素がバラバラでまとまりがなく、最適化されていない段階でもあります。
セールスイネーブルメントによって初期ステージよりも活動自体は活発化することが多いですが、正解が何なのか、具体的にはまだ見えてきません。発展途上ステージは試行錯誤の段階と見ることもでき、ノウハウが圧倒的に不足しているため、営業活動では成功よりも失敗が多いと言えます。
ツール
使用するツールの数が増え、チームや担当者が必要なものをそれぞれ所有しています。ただしツールの整理整頓がされておらず、必要なものを個々で探さなければなりません。
KPI
多くの項目で測定できる状態になっていませんが、自社のWebサイトの閲覧数など、基本的な表紙数の測定は開始できます。
マネージドステージ
ステージ3はマネージドステージと呼ばれています。マネージドステージでは、効率的な営業活動を実行するために必要な環境構築が整っている段階のことを指します。
最適な環境が整っているうえノウハウが生まれ、営業活動が高い確率で実を結ぶようになってきます。また、社内の環境が整備されたため、営業担当者がコア業務である営業活動に集中しやすくなります。
ツール
マネージドステージに比べ、営業に関するツールはさらに充実していきます。また、各種ツールから得たこれまでの営業活動の分析結果を元に、必要な情報を引き出すこともできます。
KPI
KPIに設定される項目は多岐に渡り、複数の視点から分析できます。分析の際に使用するデータは一過性のものから長期的なデータまでが含まれていくようになり、データ活用の文化が成熟してきます。
最適化ステージ
ステージ5は、セールスイネーブルメントの最終段階です。すべてが最適化されたステージです。営業活動や人材育成などあらゆることについて、最も効率の良いノウハウが蓄積され、社内で共有されています。このフェーズでは組織の規模も大きくなっているため、営業部門が人事などの他部門と連携しながら戦略を立てていくことが重要です。
ツール
蓄積してきたデータに微調整を加え、より良いものに進化させます。ツールの利用状況や結果を元に、最適な行動が導き出されるようになります。
KPI
データ・ドリブンステージよりもさらにKPIに設定される項目が増加します。KPIのデータをもとに営業の行動を修正した結果どのような効果があったのか、分析します。